酸蝕歯とは?
酸蝕歯とは読んで字のごとく「酸に蝕まれた状態の歯」のことを指します。
主な症状としては、「前歯の先端が透けてきた」、「歯の表面がざらつく」「熱いもの、冷たいものがしみる」などが挙げられます。
歯が酸で溶けると言えば、まずは虫歯菌が生成する酸で溶けるというイメージがありますが、歯が溶ける原因は何も虫歯だけではありません。
食品に含まれる酸や胃酸の逆流などでも歯が溶けてしまうことがあるんです。
このように虫歯以外で歯が溶けてしまった状態の歯を虫歯と区別して酸蝕歯と呼んでいます。
酸蝕歯は特別なことではありません。
国内の1,108名を対象として実施された疫学調査の結果、被験者の実に26.1%が酸蝕歯になっていました。また、欧米7か国で3,187名を対象にした調査では、うち29%が酸蝕歯という結果に。
参照文献:北迫勇一 酸蝕症の病態と臨床対応
酸蝕歯が起きるメカニズム
歯は、全体の大部分を占める「象牙質」とその周囲を覆う「エナメル質」で構成されています。エナメル質は人間の体を構成する組織の中で最も硬く、水晶と同程度の硬さがあるとされているのに対し、象牙質は柔らかい組織であるため、刺激に対して敏感でわずかでも刺激が加わると痛みを感じることもあります。ただし、そんな丈夫なエナメル質にも弱点があるんです。
それは酸に弱いということ。具体的に言うとエナメル質は口腔内がpH5.5以下の酸性環境になると溶け始めてしまいます。
酸蝕歯の原因となる注意すべき酸
酸性食品(酒石酸、酢酸、クエン酸etc)
一般に酸性の食品を摂取すると当然口腔内のphは酸性へ傾きます。
柑橘類や、リンゴ、トマト、ワイン、炭酸飲料、お酢、ドレッシングなど日常的に口にする食品のほとんどが実はph5.5未満の酸性食品なんです。
しかしご安心ください。これらを口にした方全てが酸蝕歯になるわけではありません。それは口腔内を中和する唾液の存在があるからです。唾液が正常に働く環境であれば酸蝕歯のリスクを大幅に軽減することができるのです。
時間を決めずに一日中お菓子などを食べ続けていたりするなど、唾液による中和を妨げるようなことをしなければそれほど心配はありません。
胃酸(塩酸)
ご存知のように胃に入ってきた食物を消化する胃酸はph1.0~2.0という強酸で、その主成分は化学実験でもおなじみの塩酸です。
通常、胃酸が口腔内に上がってくることはありませんが、もし嘔吐や逆流性食道炎などで、頻繁に胃酸の逆流が起こってしまうと酸蝕歯になるリスクが上がってしまうので注意が必要です。
酸蝕歯の予防法
基本は、酸蝕歯の原因となる生活習慣を改善することです。
酸蝕歯の原因で最も多いのは、唾液による中和を妨げることによるもの。
下記の点に注意してみましょう。
食習慣の見直し
美容や健康のために黒酢を摂ったり、お菓子の代わりに果物を食べたりする方が多いことからもわかるように、酸性の食品自体は身体にとって有用な面もたくさんあります。
酸性の食品を排除するのは現実的ではありませんので、摂取した後の対応に気を配ることが重要です。
口の中に絶えず食べ物があるような「たらだら食べ」をしていると、口腔内はずっと酸性のままで歯が溶けるのを促進してしまう怖れがあります。
炭酸飲料や、ジュースなど酸性の飲み物もあまり摂り過ぎないようにしましょう。
水分補給をするなら、緑茶やウーロン茶などの中性の飲み物を選ぶようにしてください。
終わりに替えて
虫歯でもないのに歯が溶けるからと言って「酸蝕歯」のことを必要以上に恐れることはありません。歯科の実際の現場でも「わずかに歯の表面がざらつく」「歯の先端が少しだけ透けている」などの軽度の酸蝕歯であればあえて治療はせずに、食習慣や生活習慣を改善して、それで進行が止まればそのまま経過観察をする場合も意外と多いもの。
酸蝕歯もまた虫歯同様、心がけ次第で予防できる歯のトラブルです。
この機会に今一度ご自分の生活習慣を振り返ってみませんか。
(サクマユウナ)
執筆者:alluxe編集部