今回のテーマ「唇」
歌人 野口あやこさん
1987年岐阜生まれ。名古屋在住。
高校在学中、第49回短歌研究新人賞を受賞。第1歌集『くびすじの欠片』で第54回現代歌人協会賞を最年少受賞。大学在学中は諏訪哲史ゼミに在籍し、小説を執筆する。歌集に『夏にふれる』『かなしき玩具譚』『眠れる海』。三角みづ紀との共著に『気管支たちとはじめての手紙』(電子書籍)。近年は朗読活動に力を入れ、機を得てフランスでの短歌朗読を行う。またエッセイ、コラボレーションも精力的に行っている。
アリュクス美人部の二人や7つの大学の短歌会メンバーが短歌を投稿!
インターネット上でオンライン歌会開催
第1回となる今回は、読者代表としてアリュクス美人部の二名、早稲田、慶應、日本女子大、國學院、同志社、神戸大、大阪大の七大学の短歌会メンバー、さらに都内で働く会社員の女性たちから短歌の投稿が寄せられ、それらの短歌を発表する場所として、インターネットを使ったビデオチャットを利用し、「オンライン歌会」が開催されました。
歌会では、まず野口先生に当てられた人が一首朗読。そして、その短歌について、皆で読みときながら感想を伝え合いました。
読者代表・アリュクス美人部からは二名が参加ビデオチャットを使った歌会で短歌を楽しみました。
城崎 「マジカルルージュ」を使えば、キャリアウーマンたる私が変身できるんだという女性の強さを詠ったものだと思いました。
ERICA 本当に、現代女性の心の声がそのまま出ているなって思うんですけど。とりあえず眉毛がわかる、ファンデーションを薄くのばしている状態でも「マジカルルージュ」を使えば、顔がちゃんとするという印象です。
野口 「顔全体が薄い」は美容用語ですね。すっぴんではなくて、ファンデーションと眉毛だけの顔を思い浮かべました。「マジカルルージュ」という変身アニメを思わせる軽やかなしらべの言葉が魅力。
白都 理性的な感じなんですけど、万が一、出会いがあるかなって乙女チックな感じがかわいいなと思いました。
野口 ぶつ切りの小刻みな調べが、本当に時間がない感じがして臨場感があります。普通に書くと「万が一を期待する」になるところを「を」抜きでより期待度をあげていますね。三行詩のようになっているのもこの場合効果的です。
常楽 「地に椿 顔に唇」と言うのは、唇が一回開いたら、何かを言うまで閉じないか、何かが始まるかを予感させることかなと思って。「顔に唇」と「地に椿」を対比させているけど、「地に椿」ってどういうことなのかな。
野口 椿が落ちるという、映画では惨殺やラブシーンの予見のように使われるシーンの暗喩が巧みです。具体的な場面や設定を言わず、ドキドキ感のにおいだけでまとめたのが玄人の技。
野口 コミックの影響でしょうか。「ヴ」はくちびるをすぼめた形になるので、現実的にはくちびるを塗るには向かない状態。コミックの少女が鏡の前でおめかししている姿が浮かびます。桃花というレトロな表現もポイント。
佐々木 「りっと」という特殊な擬音がこの歌のポイントかと思います。口紅って固いわけじゃなく、ちょっと柔らかいですよね。その独特な質感が表れているのではないでしょうか。口紅がけっこう上手く引けたとか、綺麗だったとかで、一瞬、意識が日常生活を離れる瞬間なのかなと思いました。
野口 メイクという他者を意識するシーンであえて自分に没頭して「きみのことを忘れる」。女性の主体性と「りっ」という主体の動きが見えるのが大変面白かったです。シンプルな構図で強い意志を見せる歌。
常楽 なんとなく暇な時とか薄皮をはいじゃうことがあると思うんですけど、それを花に例えたということで、一気に多少官能的だったり、艶っぽい感じになるのかなと私は感じました。剥いてはいるけど、ぼーっとしてるというか悩み事とかあるのかな、アンニュイな気分といいますか。
野口 白百合のもつ清純さとくちびるをむくという清純さゆえの残虐さがポイントなのでしょう。この残酷さはなにか惹かれます。市川さんは森茉莉とか読むといいかも!
野口 作品の中で一番クリアに色味を感じた歌でした。「あざやかな」と形容から入るというオーソドックスなつくりが効果的です。「リップにぴったり」という弾む音もいいですね。思想性をあげるかポップさで突っ切るか。いろんな可能性を秘めているような。
野口 鏡を見る自分をさらに俯瞰してみているような視線が独特。ピュアなようで冷めた目線があります。「大人の色味」というのを比喩で言ってみるともっと独自の可能性が広がる気が。
RIKA 自分は前のめり気味で口紅を塗るシチュエーションが無かったので、面白いなと思いました。「あなたのカタチ」とは、もちろん、心情だけではなくて、相手の外面を詠まれているのかと感じました。
野口 「カタチ」というカタカナ表記が秀逸。あなたのシンボルともシルエットともとれる微妙な言い回しです。前のめりで塗るという大きな動きを歌の前半に持ってきたのもポイント。
佐々木 いつもよりちょっとひと手間かけたメイクで、すごく気合いを入れたはずなのに、裏目に出てしまい、がっかりしている。
白都 頑張ったのに裏目に出てしまうのがお茶目でかわいいです。
野口 動きが小刻みで見えるリズミカルな言葉使いが面白いですね。コマ割りのようにシーンが浮かびます。どのシーンに文字数を割くか緩急をつけることでもっとドラマチックになる予感。
後編へ続く▶【美容×短歌】つやめく5・7・5・7・7「つやめき短歌」(後編)